PUBLICATIONS論文誌・刊行物

STEM教育研究 第7巻

2025-03-31 | PUBLICATIONS

STEM教育は学際的な研究分野であり、幅広い実践者や研究者が横断的に議論することが期待されています。今回は、査読委員と編集委員の協議の結果、5本の論文と1本の寄稿を採択し、掲載しています。

第7巻では「なぜ今STEM/STEAM教育なのか」をテーマに論文を募集しました。その背景には、STEM教育研究の第1巻が発行された2018年頃のSTEM/STEAM教育を取り囲む環境が大きく変化したことがあります。例えば、GIGAスクール構想に基づく1人1台の端末の配備や、探究学習の授業導入とそれに伴う多くの実践、さらには生成AIの登場など、学習者を取り巻く環境は劇的に変化しました。その中で、改めて教科を横断し、実社会の問題解決を目指すSTEM/STEAM教育の考え方が、学習における問いの立て方や学習プロセス、そして学習のアウトプットにどのような影響を与えてきたかが、さまざまな実践を通じて論じられています。

STEM教育学会は今後も「STEM教育研究」の刊行とその内容の充実を目指していきます。多くの研究者からの投稿と、読者による積極的な活用を期待しています。

 

本誌に関するご意見、ご感想等は、お問い合わせフォームより受け付けています。
 
※編集委員会は下記の構成です。(50音順)

編集長 赤堀侃司(一般社団法人 ICT CONNECT21)
副編集長 中川一史(放送大学)
編集委員 大谷忠(東京学芸大学大学院)
編集委員 岡部恭幸(神戸大学大学院)
編集委員 加藤由樹(相模女子大学)
編集委員 鹿野利春(京都精華大学)
編集委員 齊藤萌木(聖心女子大学)
編集委員 下郡啓夫(函館工業高等専門学校)
編集委員 鶴田利郎(国際医療福祉大学)
編集委員 堀田博史(園田学園女子大学)
編集委員 益川弘如(青山学院大学)

発行者: 日本STEM教育学会
発行地: 東京都新宿区

 

■目次
STEM教育研究 Vol.7 目次

 

■研究論文
探究の活動と創造の活動の往還を支援するSTEAM教育の開発と評価―小学5年生の公的自己意識・学習方略・課題設定に着目して―
北澤 武・森田 裕介

本研究では,児童1人1台のICT端末を用いながら,Kolodner(2002)のLearning by Designの考え方に基づいた探究の活動と創造の活動を往還させるSTEAM教育を開発した。具体的には,1)ワークシートに調査の計画や研究・デザインを記述させること,2)児童のICT端末で構築・テストを実施すること,3)共有スライドを活用して発表・共有を支援する学習環境を構築した。開発したSTEAM教育を小学5年生の総合的な学習の時間で実践し,児童の公的自己意識の高低に着目しながら,学習方略と課題設定の関連を分析した。その結果,公的自己意識の高低にかかわらず,「タブレットから手がかりを集めようとする」学習方略と課題設定,および「勉強をするとき,くり返し心の中で考える」学習方略と課題設定に関連が認められた。

 

科学テーマに関する対話の可視化と特徴
赤堀 侃司

本研究は, 自然科学や社会科学などの正解が決まっているテーマについて, 教師と学習者および学習者間で対話を行い, その思考過程を可視化して, その特徴を分析した結果を報告している。この研究分野は, 授業研究とか授業分析と呼ばれ, 授業実践に影響をもたらした長い歴史を持っているが, その流れを概観した上で, 本研究の特徴を対比的に述べる。本研究方法については, 10の科学的課題をテーマにして, 14名の大学生を対象にして合計14の対話事例を逐語記録して, 対話の思考過程を可視化して, その特徴を分析した。その結果, 4つの対話パターンとして分類することができた。この対話パターンを検討することで, 対話における思考過程の特徴を抽出することができた。さらに, それらの特徴を模式図として表現した。本研究によって, これまでの授業分析研究にも寄与できる示唆が得られた。

 

STEAM 教育をはじめとする探究活動を支援する学生の心情の変化
後藤 大二郎・露木 隆・米田 重和・荒木 薫・松尾 敏実

筆者らは地域の小中学生の探究活動を支援する学生サークル「佐賀大探究お助け隊」(以下,お助け隊)を立ち上げ,学生が中学校や社会教育の発明クラブにボランティアとして参加し,子どもの探究活動を支援する取組を行った。「お助け隊」に参加した学生の心情の変化を明らかにし,子どもの主体的な学習を支援できる教員を育成するための示唆を得ることを目的とした。本実践により教職への不安が解消し,子どもの発想や関心・意欲の大切さに気づくことを通して,教員を志す気持ちが再燃しており,複線径路・等至性モデルを描くことで,学生の心情の変化を明らかにした。お助け隊の活動は,学生の就職に対する不安を払拭し,子どもの主体的な学びを支援していこうとする意識の変容に寄与していた。
 

通信教育課程の大学生を対象とした生成 AI チャットボット Creative Copilot によるオンライン講義でのジェネラティブアート制作支援:STEAM 教育実践のための新たなアプローチの評価
小川 修一郎・坂本 優子・清水 恒平

本研究は、通信教育課程の大学生を対象としたオンライン講義でのジェネラティブアート制作支援のための生成AIチャットシステム「Creative Copilot」の有効性を評価するものである。STEAM教育の一環として技術的スキルと芸術的感性の統合を目指すことを目的としている。Creative Copilotは自然言語処理技術を基礎とする生成AIを活用し、個別化された学習支援や即時的なフィードバックを提供する。
混合研究法を採用し、定量的および定性的データを収集・分析することで、システムの導入が学生の積極的参加度、内容理解度、満足度に統計的に有意な改善をもたらしたことを明らかにした。質的分析からは学生がシステムと頻繁かつ有意義な対話を行っていたことが確認された。対話ログ分析からは学生の対話パターンが基本的概念の理解から具体的な問題解決、さらには高度な技術的探究へと深化していったことが示唆された。NPSスコアからは大多数の学生がシステムを肯定的に評価していることが判明した。
 

Learning by design モデルを用いた STEAM 教育の検討 ―STEAM 教育における数学の役割に着目して―
石田 歩夢・岡部 恭幸

AI,ロボット,IoTなど先端科学技術発達に伴って急激に変化していく社会に対応して社会的な課題を解決できる人材育成が求められているという背景の中,STEM教育およびSTEAM教育が世界的に注目を集めている。中央教育審議会答申(2021)では,STEAM教育を通じて資質と能力を育成することが示されている。しかし,STEM教育において「科学,技術,工学,数学の統合」に関して,各教科の知識やスキルを活用するだけではなくそれらを創ったり深めたりするような活動の必要性が指摘されている。特に数学の位置づけについては単なる道具に過ぎないのかという問題が提起されており,その解消が望まれている。本稿では,探究的活動と創造的活動とを架橋するモデルであるLearning by designモデルを用いて,数学教育とSTEAM教育の統合に焦点をあて,数学の知識が創られたり,深まったりすることが位置付けられているSTEAM教育の構築を目指し,その基盤となる理論について検討する。
 

■特別寄稿
特別寄稿の背景
奈良女子大学附属中等教育学校の「チーム武村」は、2024年3月に上野学園中学校・高等学校にて開催された「ベネッセSTEAMフェスタ2024(主催:ベネッセコーポレーション)」において、「バスケットボールにおけるディフェンス時の視線制御方略」と題した研究発表を行い、JSTEM学会賞を受賞した。本稿は、受賞時高校3年生だった筆者がその後大学に進学したのちに、その研究発表の内容をもとに寄稿したものである。ベネッセSTEAMフェスタ(旧名称:新しい学びフェスタ)は、2011年から続く中高生向けの教育イベントである。毎年30校程度の学校から中高生が集まり、学校内外で学んだプロセスや成果をポスター発表やデモンストレーションとして披露し、社会課題に取り組む実践者や各分野の研究者との対話を通じて、その学びを深化させている。
本稿の研究は筆者のバスケットボールの経験をもとに、「1対1のディフェンスの巧拙は、視線に左右されるのではないか」という仮説を立て、優れたディフェンス動作と視線の関係について明らかにするものである。実験では、メガネにセットしたアイマークレコーダーでディフェンダーの視線を撮影し、視線の動向をディフェンダーが注視した相手の体の部位を0.5秒ごとに記録して分析した。「重心が低い」「ハンズアップができている」といった優れたディフェンスの条件の到達度を3段階で評価する観察的動作評価を独自に作成し、視線の動向と比較した。研究を進める中で第三者からの指摘を受けアンケート調査や追加調査を行うことで、実験の精度を高めたことや、立てた仮設を検証するためのプロセスが高く評価された。
今後、STEAMの観点から様々な社会課題と学問を結び付けた探究的な学びが全国各地の高等学校で活発化していくことを期待し、特別寄稿として収録した。多くの方にお読みいただければ幸いである。
小村 俊平
(ベネッセ教育総合研究所 統括責任者 兼 教育イノベーションセンター長/本会 理事)

バスケットボールにおけるディフェンス時の視線制御方略
武村 愛・中川 雅子・中田 大貴

本研究では、バスケットボールの1対1におけるディフェンス動作に関し、ディフェンス力と視線制御の関連性に着目し、ディフェンス力の高い選手と低い選手の特徴の違いを明らかにすることを目的とした。対象は中学生および高校生のバスケットボール選手とし、コート内で1対1を実施してもらった。視線の動きを記録するために、ウェアラブル・アイマークレコーダーを使用した。また、ディフェンス力の指標として独自の観察的動作評価法を作成し、選手を評価した。実験の結果、ディフェンス時の視線の位置は選手の身長や経験年数に関わらず、個々の意識によって決定されることが示された。特に、ディフェンス力が高いと評価される選手は、相手選手の体幹部分(特に腹部や腰部)に視線を集中させている傾向が確認された。従来のバスケットボール指導現場では、ディフェンス時に重心を低く保つスタンスの指導が主流であるが、相手選手の体幹部分に視線を向けることも、より効果的な指導法である可能性が示唆された。