PUBLICATIONS論文誌・刊行物

STEM教育研究 第6巻

2024-06-19 | PUBLICATIONS

STEM教育は学際的な研究分野であり、幅広い実践者や研究者が横断的に議論することが期待されています。今回は査読委員と編集委員の協議の結果、3本の論文と2本の実践報告を採択し、掲載しています。

第6巻のテーマは「STEM/STEAM教育における能力育成」です。STEM/STEAM教育は、学習者が具体的に手を動かしながら試行錯誤を繰り返し、学びを深めることを重視しています。同様に、STEM/STEAM教育の研究も実践を通じて知見を蓄積し、次世代の能力育成につながるものと期待されています。掲載されている論文や報告は、それぞれのテーマで具体的な実践を行い、能力育成について議論しています。

STEM教育学会は今後も「STEM教育研究」の刊行と内容の充実を目指しています。多くの研究者による投稿と、読者による活用を期待しています。

 

本誌に関するご意見、ご感想等は、お問い合わせフォームより受け付けています。
 
※編集委員会は下記の構成です。(50音順)

編集長 赤堀侃司(一般社団法人 ICT CONNECT21)
副編集長 中川一史(放送大学)
編集委員 大谷忠(東京学芸大学大学院)
編集委員 岡部恭幸(神戸大学大学院)
編集委員 加藤由樹(相模女子大学)
編集委員 齊藤萌木(共立女子大学全学教育推進機構)
編集委員 下郡啓夫(函館工業高等専門学校)
編集委員 中橋雄(日本大学)
編集委員 堀田博史(園田学園女子大学)
編集委員 益川弘如(聖心女子大学)

発行者: 日本STEM教育学会
発行地: 東京都新宿区

 

■目次
STEM教育研究 Vol.6 目次

 

■研究論文
簡易な化合物濃度測定法の開発と高校探究学習に向けた有用性検証
市川 俊輔・長谷川 駿介・荻原 彰・米川 美有・杉澤 学

高等学校学習指導要領改訂により探究科目が設置され、すべての高等学校において、探究型学習が行われるものと考えられる。探究型学習を先駆けて行っているスーパーサイエンスハイスクール指定校では、環境水、大気、食品に含まれている化学物濃度を測定する化学実験が多く行われている。多くの高等学校では、分光光度計など高価な化学物濃度測定装置を保有していないため、化学分野の探究型学習を広く実施することが難しい状況にある。本研究では、多くの高等学校が所有しているスキャナー・パソコン、及び無料の画像解析を用いた、探究型学習に利用することのできる化合物濃度測定法を発案する。本研究手法によって、水溶液中のデンプン濃度、亜硝酸濃度、COD値など、高校探究型学習で頻繁に行われる化合物濃度測定を、広い測定範囲を持って、安価に実施できることを明らかにした。

 

小学校理科化学分野におけるGoogle スライドおよびスプレッドシートでのワークシートの活用
市川 俊輔・米川 美有・伊藤 敏之・山田 邦裕・井戸田 琉那・益野 真寿美・杉澤 学

理科授業において,クラウドで共有できるデジタル化ワークシートを活用することで,実験結果まとめや気づきを各児童間および児童教師間で即時共有ができるなど,多様なメリットを享受できる。小学校児童が自らICT端末でデジタルワークシートを利用することは簡単ではないと想定されたが,児童がGoogleスライドおよびGoogleスプレッドシートによるデジタルワークシートを活用して意欲的に授業に取り組むことができることを,小学校4年生理科授業での実践を通して確認した。加えて,Googleスライドおよびスプレッドシートを小学校理科の授業にて活用できる教員を育成することが重要になるが,教員養成課程大学生に対しての授業実践を行うことで,活用への理解や意欲を向上させることができることを明らかにした。

 

初等教育における LED を用いた STEAM 教材の活用
桃野 浩樹・松本 充

本研究では独自に開発したSTEAM教材の初等教育における実践報告とその効果について考
察した。従来のSTEMによるプログラミング教育に芸術(Art)の要素を融合し、LEDを用いたハンズオンのSTEAM教育教材を開発した。また、シミュレーションだけでなく実際にLEDなどの「モノ」の制御や成果の見える化を重視し、芸術の視点からプログラミング教育にアプローチした。本STEAM教材を用いて小学生を対象としたLEDプログラミングやLEDイルミネーションに関する講座を実施した。本教材が子供たちにとって「楽しさ」を感じる体験か否か、体験の難易度、スクラッチとの比較、プログラミングに対する学習意欲などを中心にアンケート調査し、その教育的波及効果について考察した。アンケート結果から、楽しく学びながらプログラミングの興味・関心を引き出すというSTEAM教育の概ねの目的を達成できた。
 

■実践報告
ロボットコンテストに参加した中高生がロボット開発を通して獲得した能力の検証
福田 哲也・中条 貴夫・上田悦子

新学習指導要領において、プログラミング教育の導入が大きく注目され、多くの学校で様々な実践が行われている。しかしながら、その教育効果について、1回の講座や数回の授業における検証研究が多く、長期にわたる実践における研究はほとんどない。そこで、本稿では、社会課題の解決を目指したロボット開発をロボットサイエンス教育と定義し、長期にわたる教育活動の中で、生徒たちが培った資質・能力について、OECDのキーコンピテンシーと照合しながら、検証を行った。その結果、ロボットサイエンス教育は、プログラミングスキル等の育成だけでなく、やり抜く力や協働性などの非認知能力の育成にも寄与することを示唆するとともに、卒業後の人生にも大きな影響を及ぼすことが明らかになった。
 

小学校総合的な学習の時間における探究活動と創造活動の往還を導入した STEM 教育の実践
田中 若葉・大谷 忠

本研究は,既存の小学校総合的な学習の時間に,STEM 教育の視点を取り入れた探究活動と創造活動の往還による活動を導入した授業実践を試み,その効果の検討と課題を抽出することを目的とした。授業実践では,既往の探究活動中心の指導計画に対して,構想・製作を伴う創造活動を取り入れた授業を導入し,探究活動と創造活動の往還による効果を質問紙により調べた。その結果,導入した創造活動に関して,児童の学習に対する肯定的な回答が多く認められた。また,従来実践されてきた探究活動に創造活動を導入することで,探究活動に対する学習の意識が高まり,探究活動をより促進させる効果があることが考察された。一方で,探究したことを創造活動へ活用する側面においては課題が抽出され,探究したことを創造活動に活用するというつながりを意識し,相互の活動を繰り返し往還することの重要性が見出された。

 

■特別寄稿
特別寄稿の背景
豊島岡女子学園中学・高等学校の「TG66」は、2023年3月の「ベネッセSTEAMフェスタ2023(主催:ベネッセコーポレーション)」において、「世界と日本 二面からみる明治維新 ~幕末日本の向かう先は~」と題した研究発表を行い、JSTEM学会賞を受賞した。本稿は、その研究発表の内容をもとに寄稿されたものである。ベネッセSTEAMフェスタ(旧名称:新しい学びフェスタ)は、2011年から続く中高生向けの教育イベントである。毎年30校程度の学校から中高生が集まり、学校内外で学んだプロセスや成果をポスター発表やデモンストレーションとして披露し、社会課題に取り組む実践者や各分野の研究者との対話を通じて、その学びを深化させている。
本稿の研究発表はタイトルの通り「幕末・明治維新期」をテーマにしたものである。本研究の狙いは、歴史的な出来事を時系列に並べるだけでは分かりづらい、人々の感情や思惑、時代の空気を表現し、分析することである。当時の状況を多角的に捉え、立場の違いによる人々の見方の相違を明らかにするため、日本人である薩摩藩の西郷隆盛と外国人であるイギリスの外交官アーネスト・サトウに着目した。そして、文献調査を通じて両氏の人物像を考察した上で、それぞれの視点からの物語として小説にまとめた。小説を執筆するという表現手法を用いることで、当事者の視点を持ちながら多角的な考察を可能にしている点を高く評価した。
今後、STEAMの観点から様々な社会課題と学問を結び付けた探究的な学びが全国各地の高等学校で活発化していくことを期待し、特別寄稿として収録した。多くの方にお読みいただければ幸いである。
小村 俊平
(ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長/ベネッセホールディングス 経営企画推進本部 副本部長/本会 理事)

世界と日本 二面からみる明治維新
大庭 彩花・柴 璃子(豊島岡女子学園高等学校)

幕末・明治維新期は政治的事象が複雑に絡み合った激動の時代である。時系列で出来事を並べるだけではわからない、人々の感情や思惑、時代の空気―それらを臨場感を持って理解するために、元尊王攘夷派で倒幕派の志士である西郷隆盛、さらには好奇心を抱いて日本を訪れたイギリスの外交官であるアーネスト・サトウの視点から小説を書いた。第三者目線よりさらに近づいた登場人物目線で語ることにより、当時の人々が何を考え何を願ったのかがより親密にわかるようにし、さらに同じ出来事について書かれた視点の違う二つの小説を比べることにより、考え方の違いや思想の違いをより整理できるようにした。