2022-05-16 | PUBLICATIONS
「STEM教育研究」第4巻では、「STEM教育の実践と課題」というテーマで特集を組み、積極的に実践的な研究テーマを募集してきました。
ハイブリッド型の授業などの多様な学習形態を実践されている中、実社会との接点を重視するSTEM教育は、改めて学びの形を考えるきっかけになっています。
その中で実践者の分析や、他教科との関連、各国のSTEM教育への取り組みなど、多様な側面からの研究論文を広く投稿いただきました。
今回は、査読者および編集委員の協議の結果、3本の論文を採択し掲載しています。
また特別寄稿として、福井県立藤島高等学校による、高校生が取り組まれた研究を掲載しました。
第1巻の論文募集以来、毎年幅広いテーマで数多くの論文が投稿されてきました。
STEM教育学会では、今後も「STEM教育研究」の刊行と内容の充実を図ってまいりたいと考えております。
今後もより多くの研究者が投稿されることと、より多くの読者に活用していただくことを期待いたします。
本誌に関するご意見、ご感想等は、お問い合わせフォームより受け付けています。
編集長 | 赤堀侃司(一般社団法人 ICT CONNECT21) |
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副編集長 | 中川一史(放送大学) |
編集委員 | 安藤明伸(宮城教育大学) |
編集委員 | 大谷忠(東京学芸大学) |
編集委員 | 岡部恭幸(神戸大学大学院) |
編集委員 | 加藤由樹(相模女子大学) |
編集委員 | 齊藤萌木(東京大学高大接続研究センター) |
編集委員 | 下郡啓夫(函館工業高等専門学校) |
編集委員 | 中橋雄(日本大学) |
編集委員 | 堀田博史(園田学園女子大学) |
編集委員 | 益川弘如(聖心女子大学) |
編集委員 | 山口真希(前・金沢学院大学) |
発行者: 日本STEM教育学会
発行地: 東京都新宿区
■論文
ドローンを活用した小学校河川教育教材の開発―野外学習におけるドローンの活用―
荻原 彰・前田 昌志・森下 祐介・宮岡 邦任
野外学習においてドローンを利用することは,学習者の等身大の視点に,ドローン画像による上空からのリアルタイムの視点を加えることを可能にする.等身大の視点では見えなかったり,空間的配置がわかりにくいものでも,ドローンによる視点を加えることによって理解を促進する効果が期待できるのである.そこで筆者らは治水学習の一環として,ドローンを使用した野外学習教材の開発を試みた.三重県安濃川に残る伝統的な治水手法である越流堤と霞堤を対象とした野外学習においてドローンを使用し,ドローンからコントローラーに送信される画像を教師のフェイスブックに転送し,ポケットWi-Fiを通じて児童のiPadに配信し,それを教師が説明するという構成の教材である.評価は児童の理解度の自己評価,ドローンで学習したことに対する児童の評価,授業後の振り返りの分析により行った.その結果,ドローンを利用した野外学習教材は治水手法の理解を促す上で一定の効果があったと判断できる.
音楽的な見方・考え方を育てるアカペラ教材の開発―自己調整学習の視点からー
内田 有一・角田 葵
芸術的な見方・考え方が実社会の課題解決に適用できることが期待されている。音楽科における音楽的な見方・考え方は,音楽の表現や鑑賞において働くだけでなく,実社会の課題解決に働き,STEAM教育におけるArtの役割のひとつを担うと考えられる。音楽科における表現領域では,表現を創意工夫する際,音楽的な見方・考え方により,試行錯誤を通してどのように表現するかについて思いや意図をもつ。本研究ではICTを活用したアカペラ教材に着目した。アカペラによる歌唱の学習では,学習者が主体的に音楽に関わる能力を獲得することが実践的に明らかにされている。そこでアカペラの表現を試行錯誤して工夫する過程において自己調整を促す教材を開発した。学習者は1人1台の情報端末を用いて,クラウドにある合唱動画データにアクセスし,個別学習をおこなう。これにより学習の自己調整が行われ,学習者が表現の思いや意図を創出できるという仮説を設定し,質問紙調査により検証した。開発した教材は,思いや意図の創出と学習の自己調整に有効であることが明らかになった。
デザイン思考を通じてイノベイティブ・マインドセットを育む理科授業の開発と実践
五関 俊太郎・後藤 勝洋・松浦 執
現代社会ではイノベーターの視点が求められており,学校教育においてもその人材の育成が注目される。イノベーションを創出する人材の育成にはデザイン思考とイノベイティブ・マインドセットの涵養が重要とされる。本研究では,第6学年理科「電気の活用」の展開として,センサーを用いたプログラミングを含む回路づくりを行い,デザイン思考の「Double Diamond」モデルをベースとしたものづくり活動を実践した。児童の討論記録と作品の分析から,Double Diamondモデルをベースとした指導計画の下で,多様なアイデアの創出が見られた。また,イノベイティブ・マインドセットに関する質問紙調査から,「理科の学習への意欲」「課題解決への粘り強さ」「コミュニケーションへの姿勢」「変革志向」「社会への参画」の5因子が抽出された。さらにこれらの因子が,本ものづくり実践の実施前後で顕著に向上することが見られた。
■特別寄稿
特別寄稿の背景
福井県立藤島高等学校「地球の7割を救う会」は、2021年3月の「ベネッセSTEAMフェスタ(主催:ベネッセコーポレーション)」において、「水質研究」と題した研究発表を行い、JSTEM学会賞を受賞した。本稿は、その研究発表の内容をもとに寄稿されたものである。
ベネッセSTEAMフェスタ(旧名称:新しい学びフェスタ)は、2011年から続く中高生向けの教育イベントである。毎年30校程度の学校から中高生が集まり、学校内外で学んだプロセスや成果をポスター発表やデモンストレーションとして披露し、社会課題に取り組む実践者や各分野の研究者との対話を通じて、その学びを深化させている。
本稿の研究発表は、高校生である寄稿者らが「持続可能な未来を形成するためには水質浄化が必要不可欠」としながらも、一般的な高校での実験環境では、そもそも水質汚染の正確な測定が難しいことに問題意識を持ち、取り組んだものである。この研究発表は、高校という限られた実験環境下で、高校生が放課後に簡易に検査できることを目指して具体的な提案を行った点が高く評価された。
今後、STEMの観点から様々な社会課題と学問を結び付けた探究的な学びが全国各地の高等学校で活発化していくことを期待し、特別寄稿として収録した。多くの方にお読みいただければ幸いである。
小村 俊平
(ベネッセ教育総合研究所 次世代の学び研究室 主席研究員・ベネッセSTEAMフェスタ実行責任者)
分光光度計を用いたパックテストの定量化の検討と検証-富栄養化に着目して-
石本 泰基・羽根 聡一朗・平澤 慶太・吉田 翼
現在、水質汚染を測定する指標として窒素・リン等の各種イオン濃度及びCOD値が指標となる。教育現場では簡易的にこれらの値を測定する方法としてパックテスト試験がよく用いられるが、目視で色の濃さを判定するため正確な値が判定しにくい。今回は、高校という限られた設備の中でより正確な濃度を決定するためにパックテストと分光光度計を併用した新たな測定方法を開発し、有効性を確認した。
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