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[国内の実践事例] 子どもたちが主体的に 創造的な問題解決ができる教育を

2018-09-20 | FEATURES / REPORTS

日本SETM教育学会では、これからのSTEM教育のあり方を考えるため、国内外のSTEM教育の取り組みなど、STEM教育に関する情報を発信していきます。

今回は、本学会会長の新井健一が、STEM教育を推進する東京学芸大学の大谷忠准教授と東京学芸大こどもみらい研究所専門研究員の木村優里氏と座談会を行い、お二人が取り組まれている実践事例や最新動向について教えていただきました。

プロフィール

  • 大谷先生:
    専門は技術科教育、科学技術教育、木質工学。
    日本科学教育学会理事、東京学芸大こども未来研究所理事、ジェームズダイソンジャパン理事等を務める。
  • 木村研究員:
    専門は、科学教育、理科教育、STEM教育、サイエンスコミュニケーション。
    会社員、立教大学理学部プログラムコーディネーター等を経て現職。

 

◆STEM教育の土台となるのは、テクノロジー

kenichi arai

新井:私たちは、プログラミング教育を含むSTEM分野の教育実践が、体系性や理論的裏付けをもち、社会からの期待にも応えられるように支援するため、日本STEM教育学会を立ち上げました。学会発足からもうすぐ1年が経とうとしていますが、STEM教育への注目は集まっているものの、STEM教育はどのようなものなのかといった問い合わせが絶えません。
STEM教育とは、「理数系分野を中核とした学際的・教科横断的な学び」「知識を統合的に活用しながら実社会の問題解決をめざす学び」「知識・技能だけでなく関心・意欲・態度も高まる学び」という3要素を満たす学びのことをだと考えていますが、大谷先生はどのようにお考えでしょうか?

大谷:私は東京学芸大学の技術・情報科学講座で、中学校の技術科の教員を目指す学生を養成する傍ら、東京学芸大こども未来研究所の理事を務め、STEM教育の推進にかかわっています。本研究所は、東京学芸大学の教育に関するノウハウを地域に還元していくことを目指したNPO法人で、STEM教育プロジェクトに取り組んでいます。

本研究所の目指すSTEM教育の概念図が下記です。しくみをデザインし、実用的なものづくりをするエンジニアリング(E)を、理科(S)、技術(T)、算数・数学(M)の3つの柱で支えているというイメージです。私たちは、この概念を基に、STEM教育は、各教科で学んだ知識や技能を活用し、新しいものやしくみ、価値を作り出す力を育てる教育だと考え、さまざまな実践に取り組んできました。

 

◆STEM教育で大切なのは、探究性の必要性とものづくりの視点

新井:東京学芸大こども未来研究所では、どのような実践をされているのでしょうか。具体的に教えていただけますでしょうか?

大谷:主に3つの事業に取り組んでいます。1つ目は、中学校の技術科におけるSTEM教育の推進です。さきほど申し上げたエンジニアリングの視点を重視した設計型の教育を中学校の技術科に取り入れるため、新学習指導要領に準拠した「TECH未来シリーズ」という電気自動車などを作るブロック教材を教材会社と共同で開発しました。すでに100校近くの学校に活用いただいています。2つ目は、民間教育機関と連携したSTEM教育の推進です。こちらは、木村研究員が担当しています。

木村:民間の教育機関と連携し、専用教材とカリキュラムの開発を行い、研究開発の一環としてSTEM教育を実践する教室の運営もしています。また、STEM教育を含めた教育カリキュラムを実践する学童保育・アフタースクールの専用教材も開発しています。

大谷:3つ目は、STEM教育の楽しさを多くの子どもたちに知ってもらうためのワークショップ形式のイベント「STEM QUESTスタジアム」の企画・運営です。本研究所は、「『遊び』は最高の『学び』」というテーマを掲げ、各種事業を行っていますが、より「遊び」を強調した活動を行っているのが、このイベントです。具体的には、こどもたちに場の環境を与えて、未知の世界において乗り越えなくてはいけない大きな問いを与えます。例えば、大きな壁をのりこえるためにどのようなマシーンを作るといいのか等の問いを与えて、こどもたちが問いにこたえるような新しいものを生み出す活動をSTEMを結集して行います。

新井:中学校技術科の授業に使える教材開発や民間企業と連携した事業にも取り組まれているのですね。先生のご専門は技術科ですが、技術科にSTEM教育を取り入れる際、意識されている点はありますか?

大谷:技術科においても、子ども自身が「Need to know」(探究の必要性)と「Need to do」(エンジニアリングの必要性)を双方に感じながら創造的な問題解決ができれば、STEM教育になると考えています。ただ、従来の技術科の授業は、「Need to do」の要素が多く、ものづくりだけに終始する活動が多かったと思います。これからはより設計中心型の授業展開が求められるでしょう。

新井:木村さんは、理科教育がご専門とうかがいしましたが、理科でSTEM教育を取り入れる場合に重要な観点は、どのようなことでしょうか。

木村:理科は、主に自然科学を学ぶ学問なので、学校での学びは「Need to know」(探究性の必要性)が活動の中心です。一方、民間教育機関が行うSTEM教室では、子どもたちが主体的に学びたくなるような社会的な問題解決を行う課題設定を行い、「Need to do」(エンジニアリングの必要性)を感じてもらうことを大事にしています。

例えば、ブロック教材を用いた「風力発電装置を作ってみよう」というワークショップでは、手順書を渡し、子どもたちに風力発電装置を作らせます。組み立てただけでは、プロペラはうまく回りません。主体的に創造的な問題解決できるように、スタッフは気づきを促すヒントだけを子どもに与えます。すると、ヒントを手がかりに子どもたちは、風の力を回転の力に変えるために、プロペラの角度を変えたりするなど試行錯誤して、風力発電装置を完成させていきます。

理科はものやしくみを創造することが目的の教科ではありませんが、このように創造的な問題解決を背景とした課題設定を行うことで、主体的に自然科学の探求活動ができるようになると良いのではないかと考えています。

新井:子どもが取り組みたくなる課題を与えるというのがとても大切なのですね。次にうかがいたいのは、評価についてです。理科や算数は、知識や技能の領域が多いので評価しやすいと思いますが、STEM教育はどのような方法で評価したらよいでしょうか。

大谷:難しい問題です。イギリスには、STEM的な教育を行う「Design and Technology」という科目があります。その科目では、子どもたちがどのようにものをデザインしたのかを評価できるように、ポートフォリオ形式を採用しています。このように、子どもの思考やデザインの過程を一つずつ評価できる形になるとよいと思います。

新井:子どもたちは各教科の知識や技能を統合して問題解決に臨みますので、評価にも統合的な見方が求められます。ポートフォリオ形式ならば、子どもの活動を観察し、評価することは可能でしょう。ただ、どのような変容を遂げたのかを丁寧に見ていかないと評価はできません。例えば、どのように変容してほしいのかという目標を設定し、それに対して自己評価と他者評価をすればよいのでしょうか。

木村:おっしゃる通りだと思います。私が担当する民間教育機関とのSTEM教室では、子どもたちの設計のプロセスがわかるように、作業中にワークシートを書かせています。子どもたちがどんなことに気づいたのか、気づきをどんな改善にいかしたのかを評価します。ただ、子どもたちだけでは創造的な問題解決は難しいので、子どもたちの気づきを引き出すための問いかけをスタッフにお願いしています。場面ごとに問答集も用意しています。

◆STEM教育推進における今後の課題は人材育成

新井:学校教育においてSTEM教育を取り入れる重要性が今後さらに高まっていくと思います。学校の教育課程にどのように取り入れるかが論点になると思いますが、そのあたりはどのようにお考えですか?

大谷:各教科には教科目標があるため、それを目指しながらSTEM教育を行うのは難しいでしょう。実際に、多くの学校でプログラミング教育を始めていますが、プログラミングがツールでしかなく、その本質を学べるようなカリキュラムを実践している学校は少ないと思います。教科の授業とは別に、各教科の知識を統合して、創造的に問題解決をできるような授業が、小中高と連続して設置できれば理想です。学校教育で取り入れるのが難しいのであれば、社会のなかでどう実現していくべきか、私たちも今後は考えていきたいと思いまます。

新井:授業時数の確保やカリキュラム設定は、大きな課題ですね。そのほか懸念される課題は何でしょうか。

大谷:人材の育成だと思います。先ほどご説明したワークショップ形式のイベントでは、事前にインストラクター講座を受講した地域の社会人の方にボランティアが子どもたちの活動をサポートしてくれています。ただ、学校で本格的なSTEM教育を実践するには、教育経験のある専門家でないと難しいため、そうした人材をどのように育成するかも、今後の我々の課題だと思っています。

新井:私たちも海外の動向を見ながら、これからの日本におけるSTEM教育のあり方を一緒に考えていけたらと思います。本日はありがとうございました。