2017-11-28 | EVENTS / ACTIVITIES
これからのSTEM教育のあり方を考える
「日本STEM教育学会設立記念シンポジウム」が、2017年10月11日、国立科学博物館で開催された。
「日本STEM教育学会」は、特定非営利活動法人教育テスト研究センター(CRET)が、STEM(科学・技術・工学・数学)領域を横断し実社会の問題解決を行うSTEM教育の普及を目指し、立ち上げた学会である。
シンポジウムでは、STEM教育の意義やSTEM教育の事例紹介を通じ、本学会が取り組むべき研究テーマについて議論が行われた。
基調講演 1
「これからの社会とSTEM教育」
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第一部の基調講演では、まず安西祐一郎本学会幹事・顧問、日本学術振興会理事長が登壇し、STEM教育が求められる社会の変化について語った。
講演冒頭、多様な人々が行き交うマンハッタンの街並み、熱心に授業に聞き入るインドの大学生、ハーバード大学のオープンキャンパスに参加する中国人親子などの写真をスライドに映し、それらの写真と比較しながら日本社会の状況を説明した。「日本の大企業の多くは、系列会社、下請け、孫請けを持つ家族的な構造であった。しかし、AI等の技術革新による第4次産業革命が進展し、新たな技術や価値を生み出すためには、そうした旧来の日本の企業の在り方では太刀打ちできない時代が到来している。大企業も社外の技術、人材、ノウハウ等を活用し、イノベーションを実現する「オープンイノベーション」をすることが求められ、家族的な構造から柔軟な企業構造に変わっていく時代が到来している」と述べた。
「変革を迎えた日本社会を支える人材を育てるためには、『受け身の教育から能動的な学びへの転換』という目標のもとに教育改革を行う必要がある。今、行われている大学入試改革や学習指導要領改訂も全て社会の変革に対応したものである。そして、今後、日本の子どもたちは更に世界の仲間たちと肩を並べ、仕事をすることになる。主体的・創造的な学びを行い、論旨明確に、考え・まとめ・相手の立場を考慮しながら表現する力を身につけることが大切だ。そのためには、教育に関わる大人たちは目の前の入試改革のみの対応に追われるのではなく、『なぜ教育改革が必要なのか』を認識し、能動的な学びへ転換するために心のスイッチを入れることが重要だ」と強調した。そして、これからの社会に必要な教育はどのような教育か、ポイントを以下のように示した。
そして、最も大事なこととして、「1~4のような教育を提供し、子どもが楽しく学べる場を創ることが重要だ」と述べた。これらを具体化するために有効な取り組みの一つが、様々な教科・科目を横断し実社会の問題解決を行うSTEM教育であると強調。「本学会では、これからの社会を支えていく子どもたちに必要な教育の在り方を考えていきたい」と締めくくった。
基調講演 2
「学校におけるSTEM教育−−小学校の教科におけるプログラミング教育」
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続いて、赤堀侃司本学会幹事・顧問であり、一般社団法人ICT CONNECT 21会長から、学校におけるSTEM教育の実践について講演が行われた。
日本の大学ではSTEM教育に関する研究が行われ始めているが、小学校での実践はまだ少ない。STEM教育の事例として、2017年にオーストラリアケアンズ市を訪問したときの事例を挙げた。ケアンズ市内にあるEdge Hill小学校では、「キッチン・ガーデン・プロジェクト」というプロジェクトを実施している。子どもたちは、校庭にある菜園でいろいろな野菜を育て、実際に調理して食べる。ゴミが出たら、これを菜園に戻して肥料にする。
野菜を育てるという活動自体は、多くの日本の小学校でも実施されているが、Edge Hill小学校のプロジェクトの特徴は、校庭にソーラーシステムがあり、太陽光で発電して、その電気を料理に使うという点だ。
「野菜を栽培するには、生物や科学の知識が、ソーラーシステムを理解するには、電気技術の知識が、料理を手際良く行うには、プログラミング的思考が必要となる。一見関係のない学問だが、問題解決をする際には、それらの知識技能を総動員して答えを導きだす必要があることを子どもたちが実感できるプロジェクトで、STEM教育の可能性を感じた」と評価した。
次に、質の高いSTEM教育に必要な視点として、ミネソタ大学Gillian Roehrig教授のフレームワークを紹介した。
「数学や化学、物理での学びは、現実社会でどう活用できるかの、イメージがしにくかった。しかし、STEM教育では、現実の世界と連動した学習であると認識できるように設計されていることが重要であり、失敗から学び、再設計する機会があること、児童生徒の主体的な学びであること、コミュニケーションが重要であることなどが示されている。これらのポイントは、STEM教育の代表的な学習活動であるプログラミング教育においても重要な点と似ている」と語る。
文部科学省では「プログラミング的思考」を、「自分が意図する一連の活動(目的)、動きの組み合わせ(条件や命令)、組み合わせを改善(修正)、などを論理的に考えていく力」としている。赤堀氏も「人が意図するものは、数式であり、言語であり、音符であり、踊りであり、様々な表現ができる。それらを自分の意図するものに合うように修正していくというというプログラミング的思考を学ぶというのは、様々な分野において応用できる考え方であり、それが新学習指導要領に含まれたということは、日本の教育においても重要な意味を持つ」と述べた。
最後に、小学校においてSTEM教育を教育課程に取り入れる際の課題を挙げた。「小学校の教科におけるプログラミング教育をどう年間指導計画の中で進めるのか、カリキュラムをどうデザインするのかという仕組みがないと現場での実行は進まない。既に取り組んでいると思うが、国や文部科学省を中心にガイドラインを作り、実践例を共有して欲しい」と話した。
基調講演 3
「博物館がSTEM教育に期待すること」
国立科学博物館の佐藤安紀副館長からは、「博物館がSTEM教育に期待すること」をテーマに講演が行われた。
まず、国立科学博物館の歴史を紹介し、博物館がこれまでも大きく教育に関わってきたことを述べた。そして現在、国立科学博物館は、調査研究、それに基づいた標本資料の収集保管、展示学習支援活動を有機的に連携して展開し、約450万点を超える貴重なコレクションを保管していることを説明。
「コレクションというと、古いものを収集して保管するだけだと思われがちだが、新しい技術によって、分析・研究が進むことがある。例えば、発掘した人骨の研究は、1980年代まではそれらの形態を調べることが主流であった。DNA分析や同位体分析ができるようになると、当時の人が何を食べていたのか、人類の系統や年代も特定できるようになり、わかることが飛躍的に増えた」と佐藤氏は述べた。
次に、国立科学博物館の貴重な展示物について紹介。「日本館の2階には、『日本人と自然』をテーマにしたフロアがあり、南極観測樺太犬のジロの剥製がある。展示を見ると『なぜ南極観測には、樺太犬が選ばれたのか?』『タロとジロが生き延びたのに、なぜタロの剥製はないのか?』といろいろな疑問が湧いてくると思う。博物館の展示を見ることは、子どもの興味・関心を引き出し、様々な学習活動のきっかけになる」と述べた。
また、国立科学博物館でも、学習支援事業にも力を入れていることを説明。例えば、研究者が来館者に展示や研究内容などについての解説や質疑応答等を行う「ディスカバリートーク」や、夏休みや冬休みに学会、企業、高等専門学校、大学等と協力して、工作や実験講座などを行う「サイエンススクエア」などの学習支援活動を実施しているという。
最後に佐藤副館長は、「これからの時代は、単に知識を暗記するだけではなく、主体的に考えることが重要で、子どもたちが考えたくなるようなきっかけづくりをすることが大切。博物館には、子どもたちが学びに向かうきっかけ、発問や教材となる素材がたくさんある。ぜひ、博物館を活用して、STEM教育を展開してほしい」と締めくくった。
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